■2018年度の高校受験生は迷わず進学校を目指せ
知っている人だけが知っている。この学年は国立大への入学が穴場だということを―
「2018年度の高校入試は、新しい大学入試制度への不安から、附属校志向が高まりそうです。」
そんな情報があちこちで聞こえてきます。ご存じの通り、現中3生が大学入試を迎える2020年度より、従来のセンター試験が廃止され、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)に変わるなど、大きな変革を迎えます。現中3生は将来、その入試に初めて臨むことになるのです。
「入試改革は不安を煽りますからね。早慶大やMARCHなどの有名大の附属校は確実に人気を集めますよ。」受験業界関係者は一様にそう話します。ただし、最後にこう付け加えたうえで。
「まあ、自分が高校受験生だったら、この年は絶対に附属校よりも進学校を選びますがね。」
受験業界関係者だけは、真実を知っているのです。この2018年度高校入試世代が、いかに進学校を選ぶ
「現中3生の高校受験生は、30年に一度しか到来しない夢の世代ですから。」
■浪人激減で現役受かり放題になる2020年入試
なぜ、現中3生は"夢の世代"なのでしょうか。それは、大学入試改革の初年度に起こる共通の出来事が関係しています。
「浪人生の激減です。大学入試制度の改革があると、旧入試を受けていた世代が、新入試を不安がって極端に浪人する生徒が減るのです。共通一次廃止や新課程移行など、何らかの変化がある度ににこの現象が起きています。」(教育関係者談)
確かに、今まで旧入試向けの勉強をしていた生徒が、浪人して新入試向けの勉強を始めるというのは、かなり不安なこと。入試の歴史を振り返ると、1990年のセンター試験導入時や、2015年の新課程移行のときは、浪人生が減って、その分は現役生の合格が増えています。
分かりやすいのが2015年度の大学入試でしょう。前年までが、いわゆる「ゆとり教育時代の旧課程入試」で、2015年度からが、「脱ゆとりの新課程入試」でした。
事前に多くの塾・予備校、学校までもが「この年に浪人するのは危険だ」と煽ります。
「現行の出題範囲のセンター試験も今回が最後です。来年からは出題範囲が広がって負担が増える。1年だけ経過措置があるんですが、今の高3生が浪人すると、ライバルは勉強量の多い脱ゆとり世代です。高3生にとっては、志望校に挑戦するか、ランクを下げて確実に受かる大学にするか思案のしどころ。生徒には、本当に行きたい大学に行ってほしいのですが」
都内の中高一貫校の教諭がそう漏らすように、いわば「現役の壁」が、高3生や親、高校関係者を悩ませている。受験雑誌も、「15年度入試は数学・理科が新課程対応の出題に変わる! 現行課程最後の14年度入試で、“現役合格”をめざそう!」とあおる。
(AERA 2014年1月14日「浪人できない高3の冬」より引用)
その結果、2014年度入試では国立大を目指して浪人する生徒が激減。翌年の2015年度は、浪人が少ない中で、現役生に大きく有利の入試になったのです。
論より証拠。例えばこの年、東京大学の入学者に占める現役比率は全体で3%も上昇。定員を基に単純に計算すると、本来浪人生が合格していたであろう100名の枠が空いて、その分、現役生が合格したことになります。
冷静に考えていただきたいのですが、この変化は微小な変化です。それにもかかわらず、これだけ塾や予備校、学校が変化にヒステリックになり、煽られた受験生は浪人を諦めたのです。
2020年度入試の変化は、2015年度よりもはるかに大きな変化です。すでに現高1生に対しては、「絶対に浪人するなよ。たとえ不本意な結果でも、2019年度入試で入学しないと大変だぞ」という煽りのオンパレードです。
間違いなく、現高1世代の浪人は激減します。例えば、東京大学の浪人合格者は例年全体の35%。定員数でいえば1050人ほど。もしも浪人生がこの年だけ3分の2に減ったら、350人分もの合格が現役生に回されます。翌年からは元に戻るでしょうから、得をするのは、現中3生の世代だけ。
東大だけでなく、有名大学はどこも、一定の浪人生が存在しますから、その層が減れば減るほど、現役生が受かりやすくなります。
現中3生は、国立大学にかつてないほど入りやすい世代になるということです。
■この世代だけ、優秀な中学受験生は附属に集中
もしもあなたが、東京大学、京都大学、東京工業大学、一橋大学、国公立医学部といった難関国立大学を目指すのであれば、最大のライバルは中高一貫校に通う生徒たちになるはずです。
ところが、あちこちから聞こえてくるのは、「どこの進学校も谷間の世代だ。優秀な子が他の世代よりも少ないよ。」という進学校の先生の話。
それもそのはず。例の"入試改革ヒステリック現象"は中学受験でも巻き起こり、2014年度や2015年度ぐらいから、中学入試でも附属校志向が高まったのです。
「従来なら進学校から東大に進学していたような生徒が、この年は安全を期して慶應義塾中等部などに進学しています。逆に早慶附属は優秀な世代が集まっていますね。」(中学受験関係者談)
つまり、2020年度の大学入試を迎える予定の現中3生は、ライバルである浪人生や中高一貫生が目に見えて少ないということ。この年ほど、高校受験経由で難関国立大学にチャレンジしやすい年度はないでしょう。この現象は現在でも継続していて、しばらくの間、中学受験では、優秀な生徒の附属校志向が続きそうです。
■そして、思ったほど変わらなそうな大学入試制度
さて、肝心なことは、結局、2020年度の大学入試制度はどう変わるのか、ということです。
多くの関係者が口を揃えて言うのは、「思ったほど、変わらなそうだ。」ということ。
当初の改革案では、理想論ばかりが先行して伝えられ、高校在学中に複数回のテスト受験を可能にするといった案が出たり、かなりの量の記述問題が出題されるという案が出ていました。
ところが、「そんな制度では高校の行事活動が成り立たなくなる」「そ
んな膨大な記述問題を大学で採点しきれない」といった異論が噴出。結局、紆余曲折を経て、かなり現実的な案に集約されました。
・大学入試改革、複数回テスト見送り
・記述問題は国語を基本に80字以内の短文形式へ
拍子抜けするような現実的案です。確かに、記述問題は増えるのですが、そもそも、国立大学を目指している生徒たちは、2次試験で記述問題が出題されるので、従来からそれ向けの対策をしっかりやってきました。つまり、従来の勉強から大幅に転換が必要というわけではなく、従来型の勉強で十分対応できるということです。
もちろん、これらを踏まえて、2025年、2030年と調整や改革が続くでしょう。そのころには、どのような入試制度になっているかは分かりません。ただ一つ言えることは、現中3生が初めて受ける新大学入試は、そんなに変わらないということ。従来の入試制度の合格者の9割は、新入試でも合格できるでしょう。
■若干、公立高校生に有利になる2020年度入試
もう一つの動きがあります。一般入試ではない、AO入試や推薦入試による合格比率を増やそうとしているという動きです。
これに関しては、東京大学が先行して2020年型の推薦入試を導入しています。この合格者の出身高校を分析すると、2020年度以降の入試がどうなるか
・男女共学校に有利であり、別学校に不利であること
・公立高校に有利であること
東大は、男女共学校に有利になるように、推薦入試合格者数を、別学校は1名、共学校は2名に設定しています。東大がこのようなシステムにしていて、男女の比率の偏りを是正する動きが加速している以上、この流れに追随する大学が多いでしょう。都内の別学系進学校は不利になります。
また、推薦入試は明らかに一般入試よりも公立高校からの合格者数の比率が増えています。幅広く全国の公立高校から優秀な生徒を集めたいということでしょう。
公立高校の生徒にとって、大幅に有利になると言うつもりはありません。ただ、若干ではありますが、東大型の推薦入試の拡大は、公立高校生にとって有利に働きます。
■夢の世代に生まれた幸運 チャンスを生かす選択を
以上のように、さまざまな観点から、2018年度の高校受験生が進学校を選択するメリットを説明してきました。実はこの情報、一部の大手進学塾では、保護者や生徒に伝えられているとのことでした。大手塾であっても、いたずらに「附属校のほうが安全だ」という根拠なき情報を流さずに、冷静な分析をして情報を伝えるところもあるのです。
もちろん実際には、大学附属校を選んだ方が良いケースもありますから、進学校に固執するのも問題です。進学校と大学附属校、それぞれのメリットとデメリットを考慮しつつ、この世代が大学入試時に受ける恩恵も踏まえて、各家庭で結論を出せばいいのです。
日比谷高校や横浜翠嵐高校といった躍進の続く公立高校にとっては、追い風の状況。2020年度入試でどこまで実績を伸ばすのかも注目したいところです。